複合性局所疼痛症候群の鍼灸【原因・定義・症状】

公開日:2025年  6月 3日

更新日:2025年  6月10日

本日は複合性局所疼痛症候群について解説させていただきます。

☆本記事の内容

  • 複合性局所疼痛症候群とは
  • 複合性局所疼痛症候群の原因
  • 複合性局所疼痛症候群の症状
  • 複合性局所疼痛症候群の改善方法
  • 複合性局所疼痛症候群のまとめ

銀座そうぜん鍼灸院の宗前です。

このページを書いている私は、鍼灸師として13年、担当した利用者様数80,000人を誇り、病気の休職者300人を社会復帰できるまで回復させてきた実績があります。

 

けがや手術のあと過剰な痛みや腫れなどの症状が長い期間続く慢性疼痛

複合性局所疼痛症候群とは、通常のけがや手術のあとに、過剰な痛みや腫れ、発汗異常、皮膚変化などが長い期間続く慢性疼痛の一つです。複雑性局所疼痛症候群やCRPSとも言われます。

 

CRPSは主に手足に発症しますが、症状は激しい持続的な痛みや腫れ、皮膚の色や温度の変化、発汗異常や筋力低下や関節拘縮、骨の脆弱化など様々です。

関係しているとされている要因

CRPSはまだ明確な原因がわかっていない病気です。ただし、関係しているとされている要因は複数あります。それは末梢神経の損傷や中枢神経の過敏化、交感神経の異常、免疫反応の関与などです。

 

末梢神経の損傷は、軽い外傷や手術でも、異常な神経反応を引き起こすことがあります。中枢神経の過敏化は、脳や脊髄が「痛み信号」を誤って強化してしまいます。交感神経の異常は、血流や発汗を調節する自律神経が乱れ、局所の異常反応を起こします。免疫反応の関与は、局所の炎症性サイトカインが関与しているという研究もあります。

様々な原因となりうる要因の機序

CRPSは単一の原因ではなく、炎症、免疫、神経や自律神経機能、心理ストレス、大脳可塑性などが複合的に関与する要因が多くある病気であると言われています。

 

・末梢機序

神経原性炎症:損傷後に侵害受容神経からサブスタンスPやサイトカインが放出され、血管透過性・浮腫・発汗増加を引き起こす盛んな炎症反応が発現します。これらの神経ペプチドは、侵害受容器を感作し、過敏痛やアロディニアの誘導に寄与します。

末梢神経感作:組織損傷によってブラジキニン、IL‑1β、IL‑6、TNF‑αなどの炎症性メディエーターが放出され、侵害受容神経の発火閾値が低下します。すると軽微な刺激で激痛が生じるアロディニアや過敏痛が発現し、軽度な触覚でも激しい痛みを生じる状態が持続します。

 

・中枢機序

中枢感作:NMDA受容体活性化により、脊髄や大脳皮質での痛み信号伝達が強化され、神経ネットワークの興奮状態が継続します。これにより、非侵害刺激でも強烈な痛みを感じる感受性の亢進が生じます。

大脳再編成:体性感覚領域、島皮質、前帯状皮質など炎症の起きている部位に対しての反応が異常となり、正常な感覚処理が乱れ、痛みの保持と運動障害に関与します。

 

自律神経、交感神経変調

交感-侵害受容共役:損傷部位で交感神経と感覚神経が異常結合する現象です。これにより、血流、発汗、温度制御などが混乱し、局所の血行や代謝異常がコントロール不能となります。

 

免疫、自己免疫的側面

サイトカイン、補体経路:急性期のCRPSではサイトカインが増加し、末梢の炎症感作を強化 します。IgM‑補体の活性化が、マクロファージやミクログリアを介し神経および脊髄後角の炎症応答を促進し、持続的な痛覚過敏が誘導されます。

自己抗体:β₂‑アドレナリン受容体やM₂‑ムスカリン受容体へのIgGが存在し、侵害受容器や交感神経機能を直接修飾する可能性があります。

 

心理的因子、システム連関

HPA軸の機能障害:HPA軸機能に関与するコルチゾールの低値、日内リズム異常は、炎症制御の低下とCRPSの慢性化に寄与するとされています。

酸化ストレス、微小血管障害:損傷部位では酸化ストレスや虚血–再灌流傷害が観察され、浮腫や血流障害、骨萎縮の一因とされています。

CRPSの主な症状は手足に現れる

CRPSの主な症状は手足に現れます。症状は以下のように多岐にわたります。

 

針で刺すような灼熱感のある痛み、激しい持続的な痛み、けがや手術から時間が経っても腫れがひかない、赤紫や青白くなったり冷たくなったり熱くなったりする、汗が多くなったり少なくなったりする、動かさないことにより筋肉が痩せて関節が硬くなる、骨の脆弱化などです。

鍼灸での改善の可能性

鍼灸は、交感神経の過活動や中枢過敏化の鎮静に作用する可能性があり、慢性期のCRPSに対して痛み軽減や自律神経調整、血流改善といった補助的効果が期待されています。特に、炎症が起きている部位ではないところから経絡上の遠隔での施術や神経支配領域に応じた頭皮鍼などが用いられます。

 

鍼灸では、複合性局所疼痛症候群の複雑な病態メカニズムの中でも、特に「神経過敏化」「自律神経異常」「炎症」といった領域に対して、アプローチします。

 

鍼灸はCRPSに対してすべての病態要因に直接は作用するわけではありません。しかし、神経過敏、交感神経、免疫、血流、情動といった主な要因に包括的にアプローチできる点が強みです。

 

特に以下の場合に非常に有効です。

・動かすと焼けるように痛む、触れられない → 中枢感作+末梢感作への鎮痛

・冷たくて腫れている、温度差がある → 交感神経抑制・末梢循環改善

・全身の緊張や不眠、不安が強い → HPA軸調整・情動の安定

 鍼灸が作用するメカニズム

・中枢感作 

鍼刺激でNMDA受容体の過剰活性を抑制、下行性痛抑制系を賦活し、中枢性痛の感受性を緩和します。

 

自律神経失調・交感神経優位

鍼刺激により迷走神経、副交感系の活性が高まり、交感神経過活動を抑制します。心拍変動による研究で、副交感神経優位の増強が確認されています。

 

末梢感作、神経原性炎症

鍼灸刺激は、サブスタンスPやCGRPなどの神経ペプチドの放出抑制、TRPV1の感受性低下により末梢神経過敏を沈静化します。

 

ミクログリア活性

鍼刺激で脊髄や視床、海馬のミクログリア活性が低下し、神経炎症が緩和されます。電気鍼刺激での動物実験で明らかになっています。

 

・血流障害、冷感、浮腫

経絡鍼灸や遠隔刺激で炎症部分の末梢血流量が上昇し、浮腫や冷感の改善につながります。

 

精神的ストレス、情動関連因子

鍼灸はコルチゾール低下作用や、扁桃体や前頭前野の情動調整に関与する神経可塑性にも影響します。

CRPSは早期発見、早期改善が非常に重要

CRPSは早期発見、早期改善が非常に重要です。長期化すると抵抗性が高まってしまいます。改善方法は、薬、リハビリ、神経ブロックなどです。

 

主に使用する薬は、消炎鎮痛薬や神経障害性疼痛の薬、ステロイドや交感神経遮断薬です。リハビリでは、積極的な関節可動域訓練やミラーセラピー、感覚脱感作トレーニングなどを行います。神経ブロックには、星状神経節ブロック、硬膜外ブロック、脊髄刺激法などがあります。

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