公開日:2021年 5月23日
更新日:2025年 3月 6日
本日は心因性嘔吐症について解説させていただきます。
☆本記事の内容
銀座そうぜん鍼灸院の宗前です。
このページを書いている私は、鍼灸師として13年、担当した利用者様数80,000人を誇り、病気の休職者300人を社会復帰できるまで回復させてきた実績があります。
心因性嘔吐症は、嘔吐の原因となる異常がなく、心理的なストレスが原因で慢性的に何度も嘔吐することです。不安や緊張などを感じる場合に嘔吐することが多いですが、自分自身で心理的ストレスを自覚していないこともあります。
特に子どもはまだ精神が成熟していません。そのため、上手にストレスを処理することができず体に現れることが多いのです。
さらに、以前車の中で嘔吐したという経験から、車を見ただけで嘔吐するようになるということもあります。心因性嘔吐症は、特定の場所や時間に症状が現れることもあるのです。
ストレスを感じるところから離れると改善します。例えば、ストレスの原因が学校にある場合、学校に行く前に症状が現れ、行かない日は元気に過ごせることがあるのです。嘔吐以外に腹痛などの症状が合わせて現れることはあまりありません。
心因性嘔吐症の原因は、ストレスを上手に処理できないことです。
嘔吐は、脳にある嘔吐中枢や隣接するCTZへの刺激によって起きるものです。大脳に伝わった心理的なストレスを上手に処理できない場合、不快な感情が嘔吐中枢を刺激することにつながります。
そのため心理的なストレスを感じた時、嘔吐の症状が現れるのです。特に、子どもの中枢神経系は成熟していません。いろいろな刺激から受ける影響で、体に症状が現れやすいのです。
知的能力障害や自閉症スペクトラム障害などの発達の問題がある場合は、さらにストレスの処理が上手にできないことが多いです。そのため、心因性嘔吐症を引き起こす可能性も高くなります。
・自律神経の過剰な興奮
① 交感神経と副交感神経のバランスの乱れ
嘔吐は迷走神経が強く刺激されることで引き起こされますが、ストレスによる交感神経の過剰な興奮→副交感神経の急激な反動というパターンが嘔吐を誘発することがあります。
ストレス状況では交感神経が優位になりますが、それが急に解除されると副交感神経が過剰に活性化し、嘔吐を誘発することがあります。
② 迷走神経の過敏性
迷走神経は、消化管の動きや嘔吐反射に関与しており、精神的な緊張が続くことで迷走神経の感受性が高まり、通常なら耐えられる程度の刺激でも嘔吐しやすくなります。
緊張すると吐き気がするという経験を繰り返すと、脳が特定の状況=吐き気を感じると学習してしまい、条件反射的に嘔吐が起こることがあります。
・ストレスや心理的負担
① 不安・緊張
不安や極度の緊張状態にあると、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの分泌が変化し、胃腸の動きが異常をきたすことがあります。
受験や試験、発表の前、対人関係のストレスがあると、「緊張すると吐き気がする」という条件付けが起こりやすくなります。
② 過去のトラウマ
過去に嘔吐した経験が嫌な記憶としてある場合、それを思い出すだけで嘔吐を誘発することがあります。
③ 感情の抑圧
言いたいことが言えない、感情を我慢することが多い人は、胃腸の不調として症状が現れやすい傾向があります。
・条件付けと学習(パブロフ的反応)
① 嘔吐の記憶による条件反射
特定の場所や状況が嘔吐と結びついてしまうと、条件反射的に嘔吐を引き起こします。
② 避難行動の学習
嘔吐が「ストレス状況から逃れるための手段」として学習されることがあります。これは本人が意図的に行っているわけではなく、脳が「嘔吐=ストレスからの逃避」と学習してしまうために起こります。
・精神的な病気との関連
① 適応障害やうつ病
強いストレス環境に適応できず、心身の症状として嘔吐が現れることがあります。抑うつ状態では、胃腸の機能低下と食欲減退が起こることが多く、それに伴い嘔吐することもあります。
② パニック障害
パニック発作の症状の一つとして嘔吐が現れることがあります。パニック発作は交感神経の急激な亢進を伴い、その後に副交感神経の急激な反動が起こることで、迷走神経が刺激されて嘔吐が生じることがあります。
③ 摂食障害(神経性無食欲症・過食症)
摂食障害では、食事に対する恐怖や罪悪感が嘔吐を引き起こすことがあります。過食嘔吐を繰り返すことで、食事=嘔吐するものという習慣ができ、意図しなくても食べると吐いてしまう状態になることがあります。
・ホルモンバランスと神経伝達物質の関与
① セロトニンの影響
セロトニンは脳内だけでなく消化管にも多く存在し、胃腸の動きを調整しています。ストレスがかかるとセロトニンのバランスが崩れ、消化管の運動異常が発生しやすくなります。
② コルチゾールの影響
ストレスが長期間続くと、副腎からコルチゾールというストレスホルモンが過剰に分泌され、胃酸の過剰分泌や消化不良が起こりやすくなります。これが、ストレスがかかるとすぐに吐き気を感じる一因となります。
心因性嘔吐症の嘔吐には色々なタイプがあります。気持ち悪い、むかむかするなどの悪心がほとんどで実際に嘔吐することはあまりないタイプ、何度も繰り返し続けて嘔吐するタイプ、決まった時間や場面で習慣性に嘔吐するタイプなどです。
一般的には数日から数ヶ月症状が続きます。しかし、不安や緊張を感じる場面から離れると改善します。
症状は嘔吐のみのことがほとんどで、腹痛や便通の異常、体重の減少など他の症状が現れることはあまりありません。
嘔吐が頻繁に起こるようになると、胃酸によって食道の粘膜に障害が起こったり、虫歯が増えたりすることもあります。
さらに、嘔吐に恐怖を感じるようになってしまうと、食事が食べられなくなり摂食障害が起こってしまったり、人前で吐くかもしれないと心配になってしまい不登校やひきこもりになってしまったりすることもあります。
心因性嘔吐症の症状としては、嘔吐のみですが嘔吐によって、他の症状が出る場合も十分にあるため、注意が必要です。
・嘔吐・吐き気に関する症状
① 突然の嘔吐
ストレスや不安を感じた直後、または特定の状況で急に嘔吐が起こります。身体的な病気がないため、嘔吐後も比較的すぐに回復することが多いです。
② 吐き気が続くが、実際には嘔吐しない
気持ち悪いと感じるものの、実際には嘔吐せずに終わることもあります。特に緊張する場面や食事の前後に起こりやすい症状です。
③ 朝の吐き気、嘔吐
朝、学校や仕事に行く前に嘔吐が起こります。精神的な負担が原因となるため、休日やリラックスしている時には症状が出ないことが多いです。
④ 食事時、食後の嘔吐
食事中や食後に突然吐き気を感じることがあります。摂食障害との関連も考えられます。
・自律神経の乱れによる症状
① 動悸、息苦しさ
強いストレスを感じると、交感神経が過剰に働き、心拍数が上昇します。パニック障害を併発している場合、動悸や過呼吸が起こることもあります。
② 手足の冷えや発汗
自律神経が乱れることで、手足が冷えたり、突然汗をかいたりすることがあります。緊張や不安を感じると、手のひらや足の裏に汗をかくことが多いです。
③ めまい、ふらつき
吐き気と同時にめまいやふらつきを感じることがあります。これはストレスによる血流の低下や脳の興奮状態が影響しています。
④ 過敏性腸症候群のような腹部症状
胃腸が過敏になり、吐き気以外にも腹痛や下痢・便秘を繰り返すことがあります。
・精神的、心理的な症状
① 強い不安や緊張
嘔吐への不安が強まり不安になってしまいます。不安が悪循環を生み、嘔吐を引き起こしやすくなります。
② うつ状態、抑うつ感
長期間にわたって吐き気が続くと、気分が落ち込みやすくなります。自分を責め、うつ状態に陥ることもあります。
③ ストレスの回避行動
嘔吐を避けるために特定の状況や場所を避けるようになり、回避行動が強まると、社会生活に影響を及ぼします。
・症状の特徴
① 身体的な病気がないのに嘔吐が続く
消化器系を調べても異常がなく、吐き気止めや胃薬が効きません。
② ある特定の状況でだけ症状が出る
学校・仕事・食事の場面など、特定の状況でだけ嘔吐することが多く、リラックスしている時や楽しい時間には症状が出ません。
③ 嘔吐後の回復が早い
風邪や胃腸炎と違い、嘔吐後は比較的すぐに普通に戻ることが多いです。
④ 睡眠中は症状が出ない
ストレスが原因の場合、眠っている間は症状が出ません。目が覚めた直後から吐き気を感じることが多いです。
心因性嘔吐症は、成長すると自然と改善することが多いです。一般的には予後は良好であると言われています。子どもの辛さを理解してあげた上で、成長すると改善するという考えを持つと良いでしょう。
症状が激しい場合は、鎮吐剤,抗不安薬などの薬を使ったりすることもあります。ストレスに対処する力をつけるために、カウンセリングなどをして改善に取り組むこともあります。
特定の場所や時間などの条件によって症状が現れている場合は、少しずつ慣れることで症状が出なくなるように改善を行います。
学校でのいじめなどストレスとなっている問題がはっきりと分かっている場合は、周りの大人が環境を整えてあげることが大切です。不登校や引きこもりなど嘔吐によって問題が起こっている場合は、専門家に相談することをお勧めします。
心因性嘔吐症では、親や兄弟など周りの大人が協力して見守ってあげることが重要です。
・精神的アプローチ
① 記録をつけ、考え方を修正し、回避している状況に少しずつ慣れるようにトレーニングを行います。
② マインドフルネスや瞑想を行い、ストレス軽減、自律神経のバランス調整をします。
③ 嘔吐のトラウマを軽減させる方法を行います。過去の嘔吐体験がフラッシュバックする場合、EMDR(眼球運動による脱感作)が有効です。
・身体的アプローチ
① 腹式呼吸や横隔膜リリースを行います。
② 軽い運動で交感神経と副交感神経のバランスを整えます。
③ ツボ刺激や鍼灸で自律神経のバランスを整えます。
・徐々に慣らす方法
① 最も軽いレベルの課題から少しずつレベルを上げ、成功体験を積み重ねましょう。
② 食事は少量ずつ、頻回に食べることで食べても吐かない経験を増やします。
・生活習慣の見直し
① 睡眠の改善を行います。
② カフェインやアルコールは制限して胃腸への刺激を減らし、自律神経を安定させましょう。
心因性嘔吐症と判断されるのは、病院で嘔吐の原因となる病気がないと判断され、症状が現れることに心理的なストレスが関係しているということがわかった時です。
慢性的な嘔吐は病気が原因で起こることもあります。上腸間膜動脈症候群や腸回転異常症、ケトン性低血糖症や尿素サイクル異常症、脳腫瘍やてんかん、摂食障害による自己誘発性嘔吐、周期性嘔吐症候群などは慢性的に嘔吐が起きる病気です。
心理的なストレスがあるからといっても心因性嘔吐症であるとは限りません。他の病気を見逃してしまわないためにも勝手に判断せず、まずは病院で調べてもらうことが大切です。
慢性的な嘔吐を引き起こす病気は多岐にわたります。消化器系・神経系・代謝・感染症・薬剤性など、多方面から原因を特定する必要があります。
特に注意すべきポイント
脳腫瘍や脳圧亢進症 → 朝の嘔吐・視力低下
糖尿病性ケトアシドーシス → 口臭・意識低下
胃食道逆流症 → 胸焼け・呑酸
副腎不全 → 体重減少・低血圧
サイクリック・バミッティング・シンドローム → 繰り返す嘔吐発作
気になる症状がある場合は、消化器内科・神経内科・内分泌科などにいきましょう。